新潟大学 English
ホーム災害調査2014年 大雪災害2014年2月14日から15日の大雪に伴って発生した 栃木県南西部におけるスギ林の冠雪害調査報告

2014年2月14日から15日の大雪に伴って発生した 栃木県南西部におけるスギ林の冠雪害調査報告

2014年06月05日

2014年2月14日から15日の大雪に伴って発生した
栃木県南西部におけるスギ林の冠雪害調査報告

災害・復興科学研究所 気水圏環境分野
松元 高峰・河島 克久・伊豫部 勉

1.はじめに

 2014年2月14日から15日にかけて関東甲信地方を中心にもたらされた大雪に際して,各地で冠雪により木の幹や枝が折れる被害が確認されている.中でも栃木県南西部では,広い範囲にわたってスギ人工林に甚大な冠雪害が発生した.栃木県環境森林部のまとめによると,とくに被害が集中したのは鹿沼市,佐野市,日光市で,造林地被害はそれぞれ347箇所(812 ha),272箇所(361 ha),134箇所(296 ha)に及び,また林地崩壊も多数発生している.
 気水圏環境分野では,スギ人工林に冠雪害をもたらした気象条件の解明を目的として,これまで4月中旬,4月下旬,5月中旬の3回にわたって被害状況の調査を実施した.以下に,現地調査で明らかになった被害状況と冠雪害発生時の気象条件との概要について示す.

2.被害状況の概要

 スギ人工林に冠雪害が発生した箇所は栃木県日光市,鹿沼市,佐野市にまたがる足尾山地東斜面(図1)に分布する.被害木が斜面に散在するような状況はこの領域内に(また領域外にも)広く認められるが,被害木が局所的に集中して高い被害率を示す箇所は,そのほとんどが標高250~650mの範囲に分布している.また標高が800m以上の領域になると,スギ人工林はあっても冠雪害の被害木はほとんど見られない.
 冠雪被害の形態としては,「幹折れ(裂けを含む)」「幹梢端折れ」「幹曲がり」が多く,「根返り」「枝折れ」の見られた箇所もあった(図2~10).

(クリックで大きいサイズの画像が開きます)

図1 調査地域概観図.オレンジの実線が調査ルートを,緑色の範囲が主な冠雪害発生域を示す.
図1 調査地域概観図.オレンジの実線が調査ルートを,緑色の範囲が主な冠雪害発生域を示す.
図2 黒川流域(日光市滝ヶ原:図1のLoc. 1)における被害状況..
図2 黒川流域(日光市滝ヶ原:図1のLoc. 1)における被害状況.
図3 粟野川流域(鹿沼市入粟野 横平林道:図1のLoc. 2)における被害状況.
図3 粟野川流域(鹿沼市入粟野 横平林道:図1のLoc. 2)における被害状況.
図4 粟野川流域(鹿沼市入粟野 横平林道)における被害状況遠景.
図4 粟野川流域(鹿沼市入粟野 横平林道)における被害状況遠景.
図5 粟野川流域(鹿沼市入粟野:図1のLoc. 3)における被害状況.
図5 粟野川流域(鹿沼市入粟野:図1のLoc. 3)における被害状況.
図6 粟野川流域(鹿沼市入粟野:図1のLoc. 4)における被害状況..
図6 粟野川流域(鹿沼市入粟野:図1のLoc. 4)における被害状況.
図7 思川流域(鹿沼市上粕尾:図1のLoc. 5)における被害状況..
図7 思川流域(鹿沼市上粕尾:図1のLoc. 5)における被害状況.
図8 思川流域(鹿沼市上粕尾:図1のLoc. 6)における被害状況遠景.
図8 思川流域(鹿沼市上粕尾:図1のLoc. 6)における被害状況遠景.
図9 秋山川流域(佐野市秋山町:図1のLoc. 7)における被害状況.
図9 秋山川流域(佐野市秋山町:図1のLoc. 7)における被害状況.
図10 旗川流域(佐野市作原町:図1のLoc. 8)における被害状況.
図10 旗川流域(佐野市作原町:図1のLoc. 8)における被害状況.

3.気象条件の概要

 冠雪害発生地域に近いAMeDAS鹿沼(標高165m)では,2月14日午後から降水が始まった(図11).14日いっぱいは気温が氷点下であったため,この期間は乾いた雪が降ったものと考えられる.その後,15日に入ると降水量が増加するとともに気温が上昇し,さらに風も次第に強くなり,10:30には最大瞬間風速25.3 m s-1を記録した.降水量が増加してピーク(16.5 mm h-1)を迎える15日午前中は,気温が0~2℃の間にあって降水は湿雪の形をとっていたと考えられる.午後になると気温がさらに上昇したため雪は雨に変わり,降水量,続いて風速が次第に小さくなっていった.
 現地での聞き取り調査によると,15日午前は湿雪が降っており,場所によっては明け方前後から雪が雨に変わったとのことであった.そして15日未明からスギの折れる音が聞こえ始め,明るくなってからも音が続いていた(7~8時頃にピークとなったという証言もあり)という.
 現地での証言と気象データとを合わせて考えると,15日未明から朝にかけて,強風を伴った湿雪がスギに付着して密度の大きな着雪体を形成し,風圧により幹折れなどの冠雪害が促進されたという可能性が考えられる.また,標高800m以上の領域で冠雪害が発生していないのは,この領域での気温が低く,着雪しやすい湿雪の状態にはなかったことによるものと推測される.

図11 AMeDAS鹿沼地点における気温・風速・降水量の時間変化(2014年2月14~16日)
図11 AMeDAS鹿沼地点における気温・風速・降水量の時間変化(2014年2月14~16日)