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2016年鳥取県中部地震

2016年12月20日

概要

2016年10月21日14時07分頃,鳥取県中部を震源としてM6.6の地震が発生し,最大震度6弱を鳥取県の倉吉市,湯梨浜町,北栄町で観測した。新潟大学災害・復興科学研究所 複合・連動災害研究部門では,2016年12月13日に被災地の調査を京都大学大学院工学研究科と合同で実施した。本調査では,被災地が積雪地域であることから,地震と大雪の複合災害の視点から災害リスクの有無を調べることを目的とした。新潟県では,2004年10月23日に発生した平成16年(2004年)新潟県中越地震の直後の冬期に大雪に見舞われ,被災した斜面,地盤,河川,道路,家屋などでは,大雪が単一でもたらす被害(雪崩災害,融雪災害,道路交通,家屋被害など)よりも規模・件数などが著しく拡大した1)~2)。調査者は,新潟県中越地震と大雪の複合災害の経験に基づいて被災地を調査したものである。調査は短時間で実施されたため,被害のほんの一部を確認したに過ぎないことにご注意いただきたい。

調査者

  • 河島 克久・松元 高峰(新潟大学災害・復興科学研究所 複合・連動災害研究部門)
  • 伊豫部 勉(京都大学大学院工学研究科 社会基盤工学専攻)
  • 春日 悟(新潟大学大学院自然科学研究科環境科学専攻博士前期課程)

調査箇所

調査ルート及び調査箇所を下記の通り示す。

  • 1:三朝町牧恩鳥
  • 2:三朝町横手
  • 3:倉吉市伊木(県道22号線)
  • 4:北栄町米里
  • 5:北栄町六尾(六尾北団地)
図1 調査ルート(赤線)と調査箇所(赤丸)

(1) 崩壊で生じた裸地急斜面

三朝町牧恩鳥及び北栄町米里では,地震によって住家背面の斜面が崩壊している箇所がある(写真1,写真2)。新潟県中越地震の時には,崩壊で生じた裸地急斜面で全層雪崩,土砂崩れ,土砂と積雪が同時に崩落する現象(マスコミでは「土砂雪崩」と呼ばれることもあった)が多発した1)。積雪期までに崩壊斜面の対策工事が間に合わない場合には,このような雪崩災害・融雪災害のリスクが高まることが考えられる。鳥取県のような温暖な積雪地域では,厳冬期でも降雪と融雪を繰り返すことが多いため,積雪がある程度多くなった場合,上記リスクに積雪期を通して注意しなければならない。また,北栄町米里の崩壊斜面(傾斜34°以上)の上部には,比較的樹高が高い立木(常緑樹)が不安定な状態で存在している。この立木が着雪(冠雪)や季節風の影響で倒れることがあれば,根部周辺の土砂崩壊が同時に起こる危険性がある。

写真1 三朝町牧恩鳥における住家背面の斜面崩壊
写真2 北栄町米里における住家背面の斜面崩壊(遠景)
写真3 北栄町米里における住家背面の斜面崩壊(近景)

(2) 屋根にブルーシートを張った家屋

屋根(瓦屋根)に雨漏り防止用のブルーシートが張られている家屋が多数認められた。今回の調査ルートでは,三朝町横手と北栄町六尾で特に集中していた(写真4,写真5)。また,鳥取県中部地震の被災地では,ブルーシートを土嚢で固定しているケースが目立った(写真6)。 瓦屋根などのような凹凸面をブルーシートで覆った場合には,雪が必ずしも少しずつ落下せずに溜まってしまい,それが一度に落下する危険性がある。また,土嚢はブルーシートの固定には非常に有効であるが,屋根雪が少しずつ落下することを阻害したり,屋根雪が土嚢ごと落下することもないとは言えないので注意が必要である。溜まった雪が屋根から一度に滑落した場合には,その落下速度や雪密度が大きいため大きな破壊力を有することがある。新潟県中越地震の時にも,半地下にある浴場(平屋建)の屋根上に旅館(2階建)の屋根雪が落下し,その衝撃で浴場の屋根が崩落したため,入浴中の男性2人が死亡するという事故が発生している1)。屋根雪があるときには,ブルーシートが張られた屋根の軒下付近には近づかないようにすることが肝要である。一方,大雪時には屋根雪下ろしを実施せざるを得ない場合が出てくるであろう。特に地震により強度が低下している家屋では,雪荷重による倒壊を防ぐために雪下ろし作業が必要であるが,屋根をブルーシートで覆っている場合は極めて滑りやすいため,その上にのることは避けなければならない。どうしても雪下ろしが必要な場合には,専門の事業者や役場・市役所等に相談することを推奨する。近年の日本の雪による死者の大半が屋根雪処理等の除排雪作業に伴って発生していることを理解し,屋根雪下ろしは万全な事故防止対策(例えば,http://www.bousai.go.jp/setsugai/pdf/h2312_004.pdf)のもとに行う必要がある。

写真4 三朝町横手の屋根の状況
写真5 北栄町六尾の屋根の状況
写真6 土嚢で固定されたブルーシート

(3) 道路

新潟県中越地震では,地震により道路が被災(陥没,段差など)したり,消雪パイプや流雪溝などが損傷したりしている箇所が多数見られた。これらの一部では積雪期までに復旧が間に合わず,除雪・消雪機能が大幅に低下し,道路交通(車,歩行者)の安全が確保しにくい箇所が多数生じた1)。今回の調査ルートでは,路側の変状,路面の沈下や亀裂などが認められる箇所もあったが,新潟県中越地震と比較すると全体的に軽微であると言える。調査ルート上では消雪パイプの損傷も認められなかった(写真7)。

写真7 消雪パイプの状況(倉吉市伊木の県道22号線,損傷なし)

参考文献

  • 1) 河島 克久・和泉 薫・伊豫部 勉,2005:中越地震と豪雪がもたらした複合災害.新潟県連続災害の検証と復興への視点-2004・7・13水害と中越地震の総合的検証-,新潟大学・中越地震新潟大学調査団,164-170.http://www.sc.niigata-u.ac.jp/geology/saigai/164.pdf
  • 2) 中越地震・雪氷災害調査検討委員会,2005:地震後の豪雪を乗り越えて-中越地震と2005豪雪が残した課題-,80p.

参考資料 - アメダス倉吉における最深積雪(年最大積雪深)の経年変化と大雪年の積雪深の推移

(注意)アメダス倉吉は倉吉市の最北部に位置し標高が低い(8m)。倉吉市中心部や三朝町はアメダス倉吉よりも標高が高いため,積雪深もより大きい可能性が高い