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平成30年7月西日本豪雨における岡山県倉敷市真備での被害

2018年07月24日

平成30年7月西日本豪雨における岡山県倉敷市真備での被害

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倉敷市真備での災害のポイント

  • ・広範囲な浸水被害(浸水の発生は,7/6の深夜~7/7)
  • ・真備での死者50名(9割が溺死)
  • ・支流の複数地点の破堤による市街地への流入
  • ・深夜の破堤と市街地近傍の破堤による急激な浸水深の増加
  • ・浸水深5m地域での家屋数が多い(新興住宅地)

  • ☆浸水深5m=2階の床上+1.5m程度
  • ☆垂直避難を呼びかけるようになったが,浸水深5mは大問題
  • ☆各地で洪水HZマップは作成されているが,2階床上は 直接”命”にかかわる
  • ☆全国的にある“2階床上”想定は,命を守る防災 を越えている

複数の線状降水帯の発達によって,広島県から岡山県にかけて,集中的な降雨があった.広島県から岡山県北部の山間部では5日雨量が400mmをこえている.倉敷市や岡山市などの瀬戸内海側でも300mm程度の降雨があった.岡山市の7月の平均月雨量は170mm程度.
小田川は吉備高原(広島県の神石高原)から,井原,矢掛,真備を流れ,真備で高梁川に合流する.全長約73km.高梁川との合流部(真備)での河川勾配は,0.66/1000と緩く,合流部から約8kmまでが国の直轄管理区間とされている.今回の豪雨で小田川は,5日雨量で400mmを越える地区を上流として,300mm程度の降雨の地域の水を集めて流下していた.高梁川との合流付近での背水や河川勾配が緩いことから,堤防天端までぎりぎりの状態で流下していた.
真備より上流の矢掛での水位変化によると7/6~7/7(深夜)に水位のピークがあった.特別警報(浸水)は7/6 23:10,倉敷市による避難指示は 7/6 23:45に発表された.7/7 0:30に,小田川の破堤が確認された.
平成29年策定の真備地域の洪水ハザードマップ.高梁川と小田川の比高5~6mの堤防に囲まれているため,広範囲の市街地で,5m超の浸水が予測されていた.
真備地区における小田川・支流の破堤箇所と町目ごとの死者の年齢・男女構成.破堤箇所に近い,箭田地区と有井地区で,それぞれ11名,15名の方が亡くなったことがわかる.死者の情報は,岡山県災害対策本部資料.
1947年撮影の空中写真によると,この地域では,高梁川と小田川が蛇行しながら流下していた流路+氾濫原低地が広がり,集落は,山沿いの微高地(標高15m以上)に分布している.高梁川と小田川を直線的に改修し築堤したため,真備付近の高馬川,末政川は,氾濫原部分に比高5m程度の直線的な堤防を築堤し,小田川に合流させている.小田川の堤外地では水路が設置され,水田として活用されていた.  現在の有井地区での破堤箇所は,旧集落南端の地形変換点で,新たな築堤部分との境界に相当する.この地点は1893年の水害でも破堤している.
小田川と高馬川の合流部.高馬川は旧真備町内を集水域とする県管理の小規模河川で,氾濫原低地部での堤防高は5~6m程度.小田川との合流部までは越流していない.合流部の高馬川右岸が破堤,左岸が越流し,小田川の左岸が約100m程度破堤した.
合流部の小田川は,堤防天端まで約50cmの水位があったものと推定できる.
高馬川合流部での破堤と越流.右岸が破堤,左岸が越流し,破堤部に向けて小田川の水が逆流した可能性が高い.
高馬川右岸の破堤付近の家屋.家屋基礎が洗掘されている.
小田川左岸の破堤部分.
小田川破堤箇所の近傍での浸水.道路面からの浸水深は約4.9m.
破堤箇所から約500m付近における建物基礎の洗堀.柱状改良が家屋の傾動を防いでいる.道路面からの浸水深は約5.1m.水田面からでは約6.1m.箭田地区.
破堤箇所から約500m付近における建物基礎の洗堀.柱状改良あるいは鋼管杭での支保がないため,家屋が傾動している.箭田地区.
浸水深5m程度の地域.1階建の家屋は屋根でも冠水の状態.箭田地区.
浸水深5m程度の地域.箭田地区.
末政川での破堤地点.住宅地近傍の複数個所で破堤している.
末政川左岸の破堤.堤防高は約5.3m.写真右の道路橋梁部分が低いので,道路橋部分から右・左岸側に浸水.堤防は越流していない.有井地区.
河床構造物による射流?で,河床が洗堀されている.堤外側の護岸が崩壊している.有井地区.
19地点の破堤箇所付近.末政川の堤防改修時に道路部分は,未改修であったため,橋でせきあげが起こっている.
末政川での破堤地点.地形勾配の変換点付近で,直線的な築堤区間との境界で,右岸・左岸に越流破堤.有井地区.
22地点から上流方向で連続的に破堤している区間.有井地区.
連続破堤区間の左岸側.堤防の破堤より,10棟程度の家屋,構造物が流出している.有井地区.
連続破堤区間の左岸側.写真奥が破堤した部分.有井地区.
破堤の場所が市街部への急激な浸水と死者(溺死)の発生に関連している可能性が高い.
新潟市内における浸水深3~5mが想定される場所.3m程度の浸水で2階床上となる可能性がある.

まとめ

【地域の課題】

  • ・小田川の放水流路+小田川の河道内の樹木撤去
  • ・県管理の流入河川の抜本的改修

【全国的な課題へ】

  • ・5m浸水は,垂直避難の防災を越えている
  • ・5m浸水は,相当まずいことを認識すべき
  • ・全国の5m浸水地域の防災・啓発の見直し
  • ・水位計のある河川を対象とした警報設定では間に合わない
  • ・水害常習地帯での基本的な防災理解の向上