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2018年1月13日に弥彦山で発生した冠雪害の調査報告(速報)

2018年01月25日

2018年1月13日に弥彦山で発生した冠雪害の調査報告(速報)

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1.はじめに

   2018年1月11日から12日にかけて、本州から北海道の日本海側の広い範囲で降雪が観測された。新潟県では、新潟市を中心とする沿岸地域で大雪となり、アメダス新潟では12日午前に80cmの最大積雪深を記録した。この大雪によって、新潟県内各地で除雪中の事故や鉄道・道路の立ち往生、倒木による集落の孤立などの被害が多数発生している。そして1月13日午後には、弥彦村の弥彦山登山道において、冠雪して倒れた木と雪の下敷きになって登山者が亡くなるという事故が発生した。新聞報道(新潟日報・三条新聞)によると、13日の16時45分ころ、弥彦村にある弥彦山「表参道コース」登山道の「清水茶屋」付近を下山中の登山者1名が、雪の重みによって倒れたスギなどの樹木と雪の下敷きとなり、約15分後に救出されたがすでに意識がなく、現場で死亡(死因は出血性ショック死)が確認されたとのことである。
   新潟大学災害・復興科学研究所では、この事故をもたらした森林の冠雪害の調査を1月15日に実施した。その結果の概要を以下に示す。

2.調査者

河島 克久・松元 高峰(新潟大学災害・復興科学研究所)

3.調査地域

   登山者の死亡事故が発生したのは、弥彦神社境内から弥彦山東斜面を登る「表参道コース」登山道の登山口近くにある「清水茶屋」付近(標高約110 m)である。この付近は主にスギからなる森林に広く覆われている。「清水茶屋」の西側はごく浅い谷状を呈する急斜面で、登山道はそこをジグザグに上がるようにつけられているが、「清水茶屋」からこの急斜面にかけて、冠雪のために倒伏・折損した樹木が多く見られたため、主な被害木の状況を観察・計測するとともに、「清水茶屋」から約30m下方の林内で積雪深・積雪水量の観測を行った(図1)。

図1 調査地域・事故発生地点の位置 (国土地理院「地理院地図」画像を使用)
図1 調査地域・事故発生地点の位置 (国土地理院「地理院地図」画像を使用)

4.冠雪害の状況

   「清水茶屋」付近、およびその西側の急斜面には、冠雪の荷重によって根返り、幹折れ、枝折れなどの被害を被った樹木が多く見られた(図2)。それらのうち、顕著な被害を受けた9本の樹木について、「樹種」「胸高直径」「被害形態」などを観察・計測した。その結果、9本のうち8本がスギであり、そのうち7本の被害形態が「根返り」であった(図3)。残り2本の被害は、スギの幹折れとケヤキと思われる広葉樹の枝折れ(太い枝2本)である。事故現場である「清水茶屋」のすぐ脇では、スギ2本の根返りと広葉樹の枝折れがお互いにごく近い場所で起こっていた(図4)。
   被害を受けたスギはいずれも胸高直径が30~50 cmあり、樹高は30 m程度であった。一般に、樹高が大きいのに対して直径が小さい(「形状比」が大きい)細長い木ほど冠雪害を受けやすいとされる(例えば石川ほか、1987)。しかし今回被害を受けたスギやその周辺のスギは、極端に細長い形状を示してはいなかった。このほか、急斜面に分布するスギには、枝葉が谷側に集中しているものが多いという特徴が見られた。
   なお、1月15日13:55の時点で、「清水茶屋」から約30m下方の林内における積雪深は50 cm、積雪水量(積もった雪を融かして雨量に換算した値)は95 mmであった。

図2 「清水茶屋」西側の斜面から見下ろした冠雪害発生箇所の状況
図2 「清水茶屋」西側の斜面から見下ろした冠雪害発生箇所の状況
図3 根返りの被害を受けたスギ
図3 根返りの被害を受けたスギ
図4 死亡事故発生地点付近における冠雪害の状況
図4 死亡事故発生地点付近における冠雪害の状況

5.冠雪害発生前後の気象条件

   調査地域に分布する樹木には、15日の日中においても、依然としてかなりの量の冠雪があることが観察されている(図5)。しかし冠雪がいつ、どのように発生し、個々の被害木がいつ倒伏・折損したか、またその時点における冠雪量がどれだけだったかについての詳細は今のところ不明である。そこで弥彦山周辺の気象データをもとに、冠雪が発生した状況の推定を試みる。
   弥彦山の事故現場に最も近い気象庁アメダスの巻観測所における、1月11日から14日までの気温、風速、降水量と、アメダス新潟観測所、および新潟県土木部によって三条で観測された積雪深の推移を図6に示す。巻では1月8日から断続的に降水が続いていたが、10日午後以降は気温が2℃以下に下がり、強風のもとで湿った雪が降っていたものと考えられる。11日午前中も同様の気象条件が続いたが、11日午後になると気温が氷点下になるとともに降水量が増加して、乾いた雪が激しく降る状況となった。12日になると氷点下の気温は続いたが、降水量は小さくなり、また風速も弱まっている。12日夜半から13日午後の、事故の起こる少し前までは降水は観測されず、氷点下の気温で風も弱い状況が続いていた。そして巻では15時ころから再び雪が降りだし、16時から16時半ころにかけては強い降り方になっていた(10分間に1 mmの降水量)。
   冠雪害発生時の気象条件はかなり多様であることが知られているが、地上気温については「-3 ~ 3℃」、とくにプラスからマイナスへと推移していく条件下では、みぞれや濡れ雪が枝葉に凍着するために冠雪が発生しやすいとされている(例えば石川ほか、1987)。弥彦山の場合、11日午前中までに降っていた湿雪がその後の低い気温の下で枝葉に凍着し、それ以降に降った乾雪がさらに堆積・付着して荷重が増加した可能性があると考えられる。ただし、死亡事故につながった根返りによる倒伏がどのような過程で起こったかについては不明である。

図5 冠雪したスギ林の状況 (1月15日13時ころ)
図5 冠雪したスギ林の状況 (1月15日13時ころ)

参考文献

石川政幸・新田隆三・勝田 柾・藤森隆郎(1987):冠雪害 -発生のしくみと回避法-.林業科学技術振興所.101pp.