2012年02月08日
2012年02月07日
玉川温泉雪崩災害調査報告(速報)
-玉川温泉周辺の今冬の気象状況と積雪断面観測結果-
新潟大学災害・復興科学研究所
環境変動科学部門・気水圏環境分野
※ このページの内容を記載したPDFファイルをご用意いたしました。こちらからご利用ください。
1.調査概要
秋田県仙北市田沢湖玉川字渋黒沢の玉川温泉において2012年2月1日17時頃発生した雪崩災害(3名死亡)について,気水圏環境分野(和泉薫,河島克久,伊豫部勉)では,防災科学技術研究所雪氷防災研究センター(阿部修,小杉健二,根本征樹)及び土木研究所雪崩・地すべり研究センター(池田慎二,中村明)の研究者と共同で,2012年2月3~4日に現地調査を行った。得られた結果のうち,玉川温泉周辺の今冬の気象状況と積雪断面観測結果に関してその概略を示す。なお,防災科学技術研究所雪氷防災研究センター及び土木研究所雪崩・地すべり研究センターからも調査速報が発表されるので,それらと合わせてご覧頂きたい。
2.玉川温泉周辺の今冬の気象状況
アメダス八幡平(標高578m),国土交通省・玉川温泉観測点(標高760m,図1),玉川温泉(標高750m,図1)で観測された2011年12月1日~2012年2月3日の期間の気温,降水量,降雪新,積雪深の変化を図2に示す。玉川温泉では12月上旬に根雪になっており,その後1月中旬までほぼ連続的に降雪がもたらされていることが分かる。1月17~20日には北日本は概ね高気圧に覆われており,降雪の中断期間がみられるが,その後,1月22日から雪崩発生日まで降雪日が続いている。
雪崩発生区の標高は850~940m程度であると考えられるので,これを考慮してアメダス八幡平の気温をみると,根雪日以降,雪崩発生区では最高気温がプラスになった可能性がある日はほとんどない。1月19~21日の降雪中断期間には,気温日較差と日照時間が大きいことが特徴的である。また1月22日の気温上昇は低気圧の東進に伴うものである。
(クリックで大きいサイズの画像が開きます)
3.積雪断面観測結果
2月3日に被災箇所である岩盤浴場脇の斜面(標高790m,図3)において,防災科学技術研究所と共同で積雪断面観測を行った(図4)。積雪深は246cmであり,積雪と地面の境界を除いて全層が乾き雪であった。層構造は比較的単純であり,積雪上部(高さ125cm以上)は新雪・こしまり雪・しまり雪,積雪下部(高さ125cm以下)は温度勾配変態の影響を受けてこしもざらめ化した雪からなっている。積雪上部は1月20日前後の降雪中断期間よりも後にもたらされた降雪によるもの,また積雪下部は降雪中断期間より前にもたらされた降雪によりものである可能性が高い。
積雪上部と下部の境に位置するこしもざらめ層(上部はクラスト)は,その上下の層と比較して粒径が大きいため視覚的に明瞭な層である(図5)。この層付近を2月4日に詳細に観察した結果を図6に示す。地上高125cm付近は,上からこしもざらめ雪層(高さ125~125.5cm,粒径0.2-0.5mm),ざらめ雪がこしもざらめ化した層(高さ124.5~125cm,粒径0.5-2.0mm),こしもざらめ雪層(高さ124~124.5cm,粒径0.5-1.0mm)の三層でできており,最下部のこしもざらめ雪層(図7)の硬度(プッシュゲージによる)が極めて小さく弱層であるといえる。この弱層は,土木研究所雪崩・地すべり研究センターが破断面において観測した弱層(http://www.pwri.go.jp/team/niigata/snowslide1.pdf)に対応しているものと考えられる。また,この弱層は1月20日前後の降雪中断期間の気象条件のもとで形成された可能性が高い。