新潟大学 English

上越地域の土砂災害

2019年10月19日

台風19号にともなう新潟県上越地域の土砂災害調査報告
-とくに妙高市・上越市名立区について-

渡部直喜

(クリックで大きいサイズの画像が開きます)

   2019年10月12日から13日にかけての台風19号に伴う豪雨によって,新潟県内でも土砂災害が発生した.新潟県が取りまとめた資料1)によると,土砂災害の発生数は28件である(表1).大型の台風19号による降雨は広範囲に及んだため,土砂災害も佐渡から県南西部にかけての広範囲で散在的に発生した.ただし,土砂災害の発生数・規模は限定的であり,人的被害はなかった.

表1 台風19号の豪雨による土砂災害発生状況(新潟県土木部所管分)
災   害 箇   所   数 被   害   状   況
地すべり 19 佐渡市小倉,妙高市長沢,妙高市平丸,上越市牧区今清水,妙高市下平丸(5箇所),十日町市塩ノ又(2箇所),糸魚川市東塚,上越市安塚区真荻平,妙高市上小沢,糸魚川市高倉,上越市牧区宇津俣(2箇所),上越市板倉区久々野,上越市大島区大島
※人的被害無し
※佐渡市小倉は非住家2戸一部損壊,妙高市長沢は小屋に土砂が到達するも被害なし
がけ崩れ 糸魚川市仙納(せんのう),糸魚川市須川
※人的・建物被害なし
※糸魚川市仙納,須川は人家に土砂が到達するも被害なし
土  石  流 南魚沼市宮野下,上越市板倉区別所,妙高市籠町,妙高市西野谷新田,妙高市上小沢,上越市板倉区久々野,糸魚川市梶山
※人的・建物被害なし
合     計 28

   土砂災害の発生密度が比較的大きい妙高市~上越市名立区において,10月18日に現地調査を実施した.以下の(1)~(3)に概況を簡単に述べる.

(1)妙高市関川支流長沢川流域

   長沢川流域では,河川の増水により河岸の脚部が浸食され,上方斜面が不安定化して発生した河岸斜面の崩壊が目立った(写真1).河岸脚部の浸食により,道路の一部が崩落した例もあった(写真2).

写真1 河岸斜面の表層崩壊
写真2 河岸脚部の浸食による道路の崩落

(2)妙高市関川支流平丸川流域

   平丸川流域では,道路沿いの斜面の表土が大量の水を含んだことから,土砂重量の増加とせん断強度の低下(軟化)により斜面が不安定化し,このことに起因する表層崩壊が目立った(写真3~5).長沢川と同様に河岸脚部の浸食に起因する河岸斜面の表層崩壊も見られた(写真6,写真7).

写真3 住宅の裏手斜面の表層崩壊
写真4 急斜面下方の崩積土の表層崩壊

写真5 道路脇斜面の表層崩壊
写真6 河岸斜面の表層崩壊
写真7 河岸斜面の崩壊

(3)上越市名立区名立川流域

   名立川右岸の上越市名立区東蒲生田(地すべり指定区域:東蒲生田地区)において地すべりが発生した.幅 100m,延長 150mの地すべり(図1)で,基岩は名立層の泥岩2)とみられる.

図1 土砂の堆積末端から地すべり頂部を見通した角度と距離から見積もられる地すべり斜面発生斜面

   地すべり頭部~中部に露出する崩壊斜面は地層の走向方向に斜交するものの,大局的には受け盤斜面とみられる.滑落崖には比較的新鮮な基岩が露出するが,移動土塊を観察すると,大部分は斜面表層を構成していた風化土層(泥岩ブロックを含む)および崩積土からなる.崩壊斜面の地層境界や亀裂からは,地下水の滲出が散見されることから,降雨に起因した風化土層の間隙水圧の上昇によるせん断強度低下が地すべり発生の主因と考えられる.

写真8 上越市名立区東蒲生田で発生した地すべり

参考文献:
1) 新潟県防災局危機対策課(2019):被害状況速報・報道資料13報(11月7日時点)
2) 赤羽貞幸・加藤碵一(1989):地域地質研究報告 5万分の1地質図幅 高田西部,地質調査所