新潟大学 English

千曲川流域(長野市穂保)

2019年10月19日

2019年台風19号による長野県長野市における千曲川の破堤

(調査担当:卜部厚志・片岡香子・西井稜子・渡部 俊)
文責:卜部厚志   

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長野盆地を流れる千曲川は,盆地北縁部(中野付近)で流路(堤防)幅が約1000mから1/4に減じる.このため,長野市赤沼地区や穂保地区では,“堰上げ”により河川水位が上昇しやすい.この区間での超過洪水は,昭和58年(1983年),平成18年(2006年)に発生している.
2019年台風19号による千曲川穂保地点での破堤位置.浸水深度図は,国土地理院による
長野市穂保地区での越水状況(千曲川河川事務所:危険管理型水位計の記録)
10月13日0:20堤防天端を越え,越水開始,同2:40水位超過:天端+90cm,同3:50水位超過:天端+73cm,以後観測機器流出
越流による堤防(さくら堤)法尻の削剥.画面中央の砂礫層は,落堀により洗掘されたもの.
穂保地点の破堤付近のUAV映像(国土地理院).画面中央の砂礫堆は,落堀から洗堀された砂礫層(約12000立方m).
砂礫堆は,洗いだされた河川成の砂礫,堤体を構成したいた礫混じりシルトのブロック,堤防天端の道路部材等から構成される
破堤点からの水流は,2方向が認められる.砂礫堆は,やや上流側に流下した部分に発達する.下流側に流下した洗堀による堆積物は,砂礫まじりの不淘汰な堆積物であった.浸水深2.5mであるが,長沼公民館西方の住家3棟は流出した.また,画面中央の住家は,原形のまま約500m流下した.穂保地域の浸水深度は,破堤点付近で約3m,地区中心では約2mであった.
穂保地区には,1600年代の築城とされる長沼城が位置しており,絵図をもとに現在の地形との位置関係が復元されている.今回の破堤地点は,北三日月堀と一致する.これらの堀は自然流路地形を改変したものではなく,人工的な築堤と考えられている.
穂保地区での破堤は,旧長沼城の北三日月堀地点と一致する.聞き取りによると,過去の水害時に外堀地点では漏水が発生し,堤防を補修している.また,過去の水害時に北三日月堀地点でも出水していたという情報もある(要確認).既存の堤防や堤防付近のボーリングでは,堤体直下はシルト層であるとされている.破堤付近の堤体直下が旧流路であった可能性は低い.しかし,落堀を洗掘して約12000立方mの砂礫層が堆積していることから,堤体直下に旧堀跡があり,堀跡が砂礫層で埋積されていた可能性が高い.
破堤付近の下流側の様子.浸水深は約3m.
穂保地区の集落部分での浸水深は約2m.
長沼交流センター(破堤点付近)にある1742年戌の満水の水位標.1742年8月の千曲川流域での洪水は,使者2800名,盆地での最大浸水深10.7mとされ,戌の満水と称されている.現在においても,堤防を超過する洪水が発生すれば,277年前と同様な浸水被害が発生することを示唆している.