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消雪井戸の地下水温度から推定される新潟地域の伏在活断層について

 ここに示されているマップは、元積雪地域災害研究センター教授の故大木靖衛先生を中心とするグループが1993年~98年にかけて越後平野、 六日町盆地等の消雪井戸の地下水温・水質を調査して得られた研究成果である。

 地下水温の高温異常帯は、既知の活断層や歴史被害地震と重なって分布する傾向にある。 この傾向を利用して、逆に高温地下水の分布から未知の伏在活断層を推定している。

 地下水温の高温異常帯は、阪神・淡路大震災のあった神戸市周辺でも知られている。 石井武政ら(1995、1996)は地球化学的手法により検討し、これら高温地下水を地下深部由来と結論づけ、その分布から神戸市周辺の潜在断層を推定している。 ここに示したマップには当然のことながら不確実な部分もあり、別の手法(弾性波探査等)による調査結果とも比較し、今後検証されるべき内容を含んでいる。

 なお、参考までに研究の前提となった消雪井戸の地下水温調査の有用性等について、以下にごく簡単な解説を記す。

大木靖衛ほか(1998):新潟県の歴史被害地震と伏在活断層について
産業地質科学研究所年報,9号,21-39. による。

地下水温調査の有用性

 地下水温は、主として熱伝導と熱移流に支配される。測定された地下水温分布を熱伝導理論から求められる温度分布と比較することによって、熱移流の影響を評価できる。 地下水温の測定は比較的容易かつ調査コストも安価であり、さらに、様々な条件(気象、地形、地質など)の異なる地域にも適用できる普遍性を有している。

深度と地下水温の関係

季節変動がなく、年間を通じて地下水温が一定となる深度を恒温層深度と呼ぶ。一般に恒温層深度は深さ10~20m付近に存在する。

恒温層以深では、ある地点における深さD(m)の地温T(℃)は次式によって求められる。

T = T0 + Δt × D/100  ---------------------- [1]

ここで、
T0 : その地点の年平均気温(℃)
Δt: 地温勾配(℃/100m)
である。

いま、 T0 = 11.5℃ (六日町盆地の年平均気温にほぼ等しい)、
Δt = 3.0℃/100m と仮定すると、
深さ50m(D=50m)における地温は、
T = 13.0℃ となる。熱移流の影響が無ければ、この深さの地下水温はここで求めた地温を反映する。

恒温層以深のある深さの井戸から汲み上げた地下水温は経験的に次式で求められる。

Ta=T0 + ( Δt × D/100 )β   ----------------------[2]

ここで、 β: 冷却等による損失係数(ポンプの位置や揚水量によって異なるが、経験的に0.7~0.9) である。

上と同様に、
T0 = 11.5℃、
Δt = 3.0℃/100m、
β = 0.7~0.9 の範囲と仮定すると、
深さ50m(D=50m)からポンプで汲み上げられた地下水温は、
Ta = 12.6~12.9℃となる。

以上より、年平均気温がほぼ等しい限定された地域内では、ほぼ同じ深度の井戸から汲み上げられた地下水の温度はほぼ等しくなるはずである。

高温地下水について

 実際には、周辺の地下水に比べて有意に水温の高い地下水が存在する。 近傍に火山等による熱源が認められない場合、熱移流をもたらす地下水流動に原因を求めるのが自然である。 例えば、地下深部の高温域にある地下水が、断層や岩盤の亀裂を通じて湧き上がり、帯水層中に混入していれば、断層や亀裂近傍の地下水温は周囲に比べて有意に高くなる。

消雪用井戸の有用性

 消雪パイプは冬期の道路等の雪対策に画期的な効果を上げ、昭和40年代頃より各地で急速に普及した。 昭和50年代になると、冬期の消雪用地下水の大量揚水を主な原因とする地盤沈下が認められるようになり、各自治体で地下水採取の規制に関する条例が整備された。  消雪用地下水を採取できる帯水層も規制対象とされる場合が多い。例えば六日町盆地では、消雪用地下水を採取できる帯水層は深さ40~90mにある帯水層のみであり、 公共(市町村道、県道、国道)の消雪用井戸の多くは、掘削深度が50~70mである。  同一地域における消雪用井戸の掘削深度に大きな違いが無ければ、ある程度の誤差を見込んで、測定された地下水温を直接比較しても特に問題はない。 地下水温は、地下に隠された地質情報を提供してくれる有用な指標となる。

地震と地下水の挙動

 地震予知に関連して、東海地域等では地下水温、水位、溶存成分等の観測が行われてきた。 最近、東大地震研究所の佃為成らは、兵庫県南部地震の震源から約50kmも離れた兵庫県川辺郡猪名川町で地下水温を観測した結果、 通常14℃の水温が1995年1月の震災直後、3~4℃上昇し、約3年間、常温に戻らなかった観測結果を報告している。 原因として、地震前の地殻変動で帯水層に亀裂が生じ、深部の高温の蒸気や熱水が流れ込んだ可能性を考えている。

 2001年の芸予地震では、中国地方の一部で地震発生の約3週間前から地下水温が上昇したとの観測結果もある。 地震と地下水の挙動に関する理解をさらに深めるため、今後の研究に役立てるためにも、中越地震の前後で地下水や温泉に異常が現れたか否かの情報を収集したい。 また、地震後の消雪井戸地下水温度の変化についても追跡する価値があると考えている。