小林健太(大学院自然科学研究科)
2004年新潟県中越地震は、魚沼丘陵の直下(北緯37度17.4分,東経138度52.2分、深さ13km:気象庁)で、「震源断層」を境に上盤が東南東側に1.82m(国土地理院)乗り上がる(逆断層)ことにより発生した(図1)。一般に、震源断層が地表まで達したものを「地震断層」、第四紀に繰り返し活動した地震断層を「活断層」と呼ぶ。新潟県内では、活断層そのものや、それらがずれて形成された尾根や谷などの地形が、北北東-南南西方向に多数延びている(図2)。これら活断層の多くは、新第三紀中新世(今から約2000万年前)に開始した日本海の拡大に伴って、この地域の地殻が東西に引き延ばされることによって、最初は正断層(上盤が下盤に対してずり落ちる)として発生したものが、それより後の時代に、今度は東西から押されることにより、逆断層に変化したものと考えられている。
新潟県を含む中部-近畿地方での歴史的な大地震の分布をみると、例えば、1964年新潟地震や1995年兵庫県南部地震、そして今回の中越地震など、佐渡沖から淡路島にいたる帯状の地域に集中している(図3)。この地域は「新潟-神戸構造帯(地震帯)」と命名されている。国土地理院では、この構造帯が生じている原因を探るために、自動車のナビゲーションにも利用されているGPSを使って、地殻がいま現在、どの方向へどれくらいの速度で移動しているかを、精密に調べた。その結果、新潟-神戸構造帯より西側の地殻は東へ、東側の地殻は西へと移動していることが解った。その速度は、年間1-2cmにもおよぶ。つまり、新潟-神戸構造帯では、現在でも地殻が東西両側から押され続けており、逆断層を形成するような変形が進行している。最近では、この構造帯は日本海東縁に延びるプレート境界の一部とする説が有力となりつつある(図4)。
現在でも進行している変形は、例えば、新潟県小千谷市片貝町にある活断層の露頭で観察できる(図5)。 ここの地層は、第四紀更新世(今から数万年-約30万年前)およびそれよりやや古い程度であり、地質学的にはきわめて新しいと言える。 そのような新しい地層が、折り曲げられ、直立し、さらには断層で切られている。 つまりここでは、それよりさらに新しい時代(すなわち現代)まで、激しい変形が継続していたことがわかる。
中越地震の地震断層として確実なものは、現時点では発見されていない。 片貝町の活断層も、今回の地震と同時には動いていない。 しかしながら、本震・余震の分布や地震波の解析、GPS測量などから、上述した多数の活断層が分布する地域の近隣で、これらと類似した震源断層のずれが生じたことは確実である。 言い換えると、大まかにはひとまとめにできる活断層・地震帯(新潟-神戸構造帯の一部)内において、本震・余震と少しずつ位置を変えながら、断続的に断層がずれたと推定される。中越地震は、起こるべき場所において発生したわけである。震源が分散した原因として、この地域の複雑な地下地質(例えば、第三・四紀層の褶曲構造)に規制された可能性が挙げられる。今後、地質学、測地学、地震学など多面的なデータを収集した後で、総合的に検討する必要がある。
*平成13年度新潟大学テレビ公開講座テキストより、一部を抜粋・加筆。