新潟大学 English

広神村小平尾周辺地域における地盤変状調査と地震断層としての可能性

豊島 剛志(新潟大学大学院自然科学研究科)

新潟大学調査団の構造地質グループ豊島班(豊島(自然科学)、大橋(理学部)、学生2名)は,小平尾断層を横切る数ルートで、地盤変状の調査を行った。
小平尾断層は、一部報道にて中越地震の地震断層であると報ぜられた断層である。
10/30に行った調査の結果、小平尾断層は今回の地震では動いておらず、広神村小平尾周辺の地盤変状は、 地震に伴う地すべりや重力性の崩落によって引き起こされた可能性が非常に高いと考えられる。
小平尾断層が地震断層である可能性は極めて低いと結論される。以下がその理由と調査結果である。

  • アスファルト舗装の端と消雪パイプ設置のコンクリート部が盛り上がっているが、そのすぐ横の家屋やコンクリート製側溝には変形が無い(図1)アスファルト舗装も端以外は盛り上がっていない。逆断層ではなく、地震に伴ってアスファルト舗装が横滑りし、埋設されたパイプがゆがんだために、局所的に盛り上がった可能性が大きい。
  • アスファルト舗装が盛り上がった地点の、すぐ横、北東側の地盤に小平尾断層にほぼ平行な、地震時に形成された小規模な亀裂がある(図2)これは、盛り土の南東部(斜面下方側)にあたり、本震後に南東側が沈下しつつ開口が進んでいる(地元の方の話)。盛り土の南東部にはコンクリート製溝が埋め込まれているが、亀裂の開口とともにその溝が南東側(斜面下方側)にたわんできている(図2,3)。その亀裂の延長方向、北東側では新たな亀裂が盛り土中に開口しつつある。これらの開口性亀裂は、地震に伴う地すべりや重力性の崩落によって引き起こされた可能性が非常に高い。
  • アスファルト舗装の盛り上がりや亀裂が発生している場所は、地形の傾斜が大きく変わる所(傾斜の急変点)や、盛り土と本来の地盤の間である(図4,5)
  • 小平尾地区では、地すべりや重力性の崩落によるとみなされる小規模な地盤変状が、小平尾断層付近でも離れた地点でも同様の発達程度で認められる。 地盤変状は小平尾断層に沿った分布を示さないし、小平尾断層付近で特に強いということもない。小平尾断層通過地点以外でも、傾斜の急変点や、 盛り土と本来の地盤の間で重力性の地盤変状が認められる。このことは小平尾断層の地震断層としての可能性を支持しない。
  • 小平尾断層延長部の、その他の地域における地盤の変状は、ほとんど認められない(図6)か、認められても小平尾断層付近で強い訳ではない。 認められる場合でも、重力性の崩落や地すべりに伴う地盤変状のみである。これらのことは4)同様、小平尾断層が地震断層として活動しなかったことを示唆している。
  • 小平尾断層通過地点に関係なく、斜面や地形の傾斜の急変点、盛り土と本来の地盤の間において、地盤変状の著しい場所がある。 今後、このような場所での斜面下方への地盤の移動や亀裂などに注意した対策が必要であると考えられる。

写真1
アスファルト舗装と消雪パイプ部分の盛り上がり(10/26に発表された時より盛り上がっている)
写真2
盛り土南東端付近の開口性亀裂とコンクリート製溝の右手(南東側)へのたわみ
写真3
盛り土に認められる開口性亀裂。開口とともに南東側が沈下している。
写真4
小平尾断層付近の斜面。
斜面付近に地盤変状が分布する。杉の根元が斜面方向(南東側)に曲がっている。
写真5
道路に認められる亀裂。
左手が盛り土部分で、右手が本来の地盤部分にあたり、その境界付近に亀裂が認められる。
写真6
小平尾断層が通るとされる凹地形部。
写真左端と右端に重力性の崩落、地すべりに伴うとみなされる開口性、正断層性の小規模な破断が認められるが、地震断層を示す地盤変状は認められない