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墓石転倒調査チーム調査報告

大学院自然科学研究科 内藤信明

墓石転倒調査の背景と目的

 平成8年(1996年)4月より、震度は計測震度計により観測されており、気象庁の震度観測点は全国各地に約600地点ある。地震動は、表層地盤や地下地質構造、地形等に大きく影響される。震度は、あくまでも震度計の置かれている地点の値であり、同じ市町村内でも場所によって震度は異なることがある。震度計の置かれていない地区や集落の震度を推定する方法はないものだろうか? 強震計が開発される前の地震の震度や最大加速度の推定には、墓石の転倒状況が利用されていた。気象庁震度階級関連解説表でも、震度5強の屋外で観察される現象・被害として、「多くの墓石が倒れる」とある。物体の転倒の力学は複雑であるが、墓地にある墓石の数は相当に多いので、統計的な処理によって、地震動の強さのおよその見当がつく。また、一般に地区や集落に1つくらいは墓地があるので、震度計の置かれていない地区や集落の震度を推定するのに都合がよい。

本調査の目的は、以下の通りである。

  • 広域的に墓石の転倒状況を調査し、強い地震動(およそ震度5以上)のみられる地区を把握する。
  • 墓石の転倒率をマップ化し、強い地震動の原因を解明するための基礎資料とする。
  • 強い地震動のみられる地区に共通の要因(表層地盤、地下地質構造、地形等の影響など)が認められれば、今後の防災・減災対策にも貢献できる。

中間報告(2004年10月29日現在)

調査市町村:寺泊町,和島村,出雲崎町,西山町,三島町,刈羽村,柏崎市,越路町,小国町, 三条市,栄町,見附市,中之島町,長岡市,栃尾市,小千谷市,川西町,川口町,堀之内町,小出町,高柳町
南北:約50km,東西:約40km
総地点数:151地点

転倒状況

被害大:堀之内町,小千谷市
被害ゼロ:国道116号線沿い(柏崎市~和島村),与板町,中之島町,栄町
震度分布と同様,遠くなるにしたがい転倒率は低くなる。
長岡平野東縁部では比較的高い値を示す。
渋海川沿いでは比較的高い値を示すが,局所的に低い値を示す。
柏崎市田島 転倒率9%
写真左 墓石の多くの台座の東方へ転倒している。
写真右 田島地区遠景 家屋の瓦の一部が崩落している。(10月25日 藤平,福井)

小千谷市片貝 転倒率22%
鳥居のぬきが落ち,左側の柱に亀裂が生じている。(10月29日 石原,荻原,駿河)

栄町小滝 転倒率29%
写真左 上流から運搬された土砂・倒木が墓地全体を押しだしている。
写真右 墓石に一定方向の転倒が見られる。(10月29日 丹尾)

見附市鹿熊 転倒率39%
お墓の上台からずれている.(10月26日丹尾・洞口)

長岡市村松 転倒率66%
写真左 埋設された下水管に沿って路面が陥没している。
写真右 寺院の境内の一部が地すべりを起こしている(亀裂の落差80cm)(10月26日 福井,小久保)

川西町小白倉 転倒率74%
写真左 墓地では棹石(さおいし)が軒並み倒れている。
写真右 墓地の対岸の崖が大きく崩落している.(10月26日 藤平,大友,石原)

小千谷市打越 転倒率85%
ほぼ全壊.新しい墓石が残るのみ.(10月25日 内藤,福田)

長岡市乙吉 転倒率89%
写真左 ほぼ全壊.新しい墓石以外全て転倒している。
写真右 墓地近くの家屋の基礎がずれている。(10月26日 叶内,坂)

墓石転倒率の高いところでは家屋の被害も大きく倒壊している家屋も数多く存在します。 一見、何ともないように見える家屋でもあらゆるものが倒れ、屋内の壁が剥れている家屋も存在します。 調査を行なうにあたり、被災者の皆様には本当に暖かく迎え入れていただいております。 今後も調査を進めるにあたり、被災者・寺院関係者の皆様のご理解・ご協力を宜しくお願い致します。